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条例施行後も喫煙客を逃さない! 分煙環境の事例紹介
【飲食店の「東京都受動喫煙防止条例」対策】

2020年4月に施行される「東京都受動喫煙防止条例」に向けて、一部の大手飲食チェーン店では全席禁煙にする動きも見られるようになってきました。“原則屋内禁煙”とはいえ、既存客のニーズを考えると、どう対処すればよいのか判断に迷っている飲食店経営者も多いのではないでしょうか。
本記事では条例に向けて分煙対策を行っている、大手コーヒーチェーン店と個人経営のカフェの取り組みをご紹介します。

取材にご協力いただきました
柳田武博(やなぎだ たけひろ)さん

ジェイアール東日本フードビジネス株式会社 NEXT10推進部長兼経営企画本部

『ベックスコーヒーショップ』
香り高いコーヒーとプレートメニューや手作りサンドイッチが自慢のエキナカのコーヒーショップ。ほぼ、全店舗分煙対策を施し、たばこを吸う人にも吸わない人にも快適な空間づくりを行っている。

取材にご協力いただきました
石田陽一郎(いしだ よういちろう)さん

有限会社カフェ・ド・キネマ 代表取締役

『カフェ・ド・キネマ』
東京都品川区にあるセルフスタイルのカフェ。カフェの営業後に、ワインバーや音楽イベントといった色々な試みを行っている。

試行錯誤を繰り返したからこそ、見えてきた方針

田端駅構内にある『ベックスコーヒーショップ田端店』は24.8坪、45席。駅構内ということで日中工事ができず、改装には約3週間かかった。既存の喫煙客のみならず、煙が漏れない明るい清潔感のある店内は女性客にも好評とのこと。

JR東日本グループが経営する『ベックスコーヒーショップ』(以下、ベックス)は、コーヒーと軽食を提供する“エキ(駅)ナカカフェ”です。立地柄幅広い顧客層に利用され、ほぼ全ての店舗で喫煙が可能です。喫煙客は客数の3~5割を占めており、売上へのインパクトは大きいと言えます。
ベックスの運営元であるジェイアール東日本フードビジネス株式会社は2002年に健康増進法が施行されて以来、店舗ごとに「喫煙・分煙・禁煙」環境を作って試行錯誤を繰り返してきた、「たばこ」に関して非常に感度の高い会社です。

「健康増進法が施行されてから、一部店舗を全面禁煙にしたところ売上が30%ほど落ち込んだことがあります。そのため2020年の条例施行に向けて会社の方針を決めるのに慎重にならざるを得ず、テストを行いました。『武蔵小杉店』は改装せずに全面禁煙にして売上が35%減、『町田店』は店内改装後に全面禁煙にしたところ売上が20%減、『田端店』は全面改装して加熱式たばこ専用喫煙室と紙巻きたばこ喫煙専用室をそれぞれ作ったところ売上が10%減、という結果が出ました」
そう話すのは同社NEXT10推進部長兼経営企画本部の柳田武博さん。全面禁煙にする場合は、女性客を意識した内装に変え、フードメニューを充実させることでリスクヘッジできることが分かったと言います。
また、テストを実施した3店舗(武蔵小杉店、町田店、田端店)はいずれも非喫煙客の割合が増え、それに伴いフードメニューの購入客が増加したため客単価が上がったそうです。
「田端店は2020年4月の条例施行の状態を先駆けて行っているため、今はコーヒーを飲みながら紙巻きたばこが吸える近隣店舗に既存の喫煙客が流れていった可能性があります。ただ、条例施行後は分煙環境が整っている『田端店』に戻ってきてくれるのではと考えています」

飲食可能な加熱式たばこ専用喫煙室(11席)の奥に、喫煙専用室(写真左)を備えている。加熱式たばこ専用喫煙室の認知がまだあまりないことから、改装直後は利用客にとまどいが見られたという。「標識も掲示していますが、加熱式たばこ専用喫煙室からは灰皿を撤去し、入店される際にお声がけをするなど工夫しました」と話すのは『田端店』店長の鳥養さん。

エキナカ立地の特殊性とテスト結果を考慮し、顧客のニーズを重視した上で他店舗の方針も決定していくそうです。
「短期のスパンで考えると喫煙環境があった方が顧客を逃しませんが、10年後もそうとは限らない。“喫煙者に頼らない売上の立て方”は、今後の課題です」と柳田さんは語ってくれました。

補助金を活用して分煙対策を続けることで売上を確保

『カフェ・ド・キネマ』は18坪。現在52席中、喫煙席は21席。2020年の条例施行に向けて、向かって左手に紙巻きも加熱式も吸える喫煙専用室を新たに設置し、既存の喫煙室をどのように改装するかを現在検討中。仕切りがガラス張りで圧迫感がないため、レイアウトを鑑みて全て撤去せず一部残すことも考えているという。

東京都品川区にある『カフェ・ド・キネマ』は、石田陽一郎さんが2004年にオープンしたセルフスタイルのカフェです。“出社前にコーヒーとともに一服”と、オープン以来サラリーマンのリピーターを中心に喫煙客の憩いの場として親しまれてきました。
2010年、店舗近くに「劇団四季」の専用劇場ができてから利用客に変化が見られるようになったと言います。女性客や家族連れが来店するようになりましたが、店舗が「エリア分煙」と分かった途端に帰られるケースが目立ってきたそうです。そこで石田さんは喫煙するお客様のためにも吸える環境を維持しつつ、喫煙しないお客様にも快適な環境を作るために、2016年に補助金*を利用して分煙環境を整えることにしました。

喫煙室の工事期間は約1週間。300万円を補助金*でカバーできるため、自己負担を抑えて喫煙室周辺の壁紙や床も喫煙対応のものに変え、レイアウトを見直すことで客席数を増やすこともできました。「喫煙できる席数が減ったことで喫煙されるリピーターさんにはご不便な思いをさせてしまいましたが、引き続き利用頂いています。ご家族連れやカップルのお客様の利用を見込んで、フードやデザートメニューを工夫したことで結果的に売上は伸びました」と石田さんは言います。
ただ、今ある喫煙室を2020年の条例施行後も活用するには、加熱式たばこ専用喫煙室とするしかありません。「現在は紙巻きたばこのお客様が多く、加熱式たばこの需要がどれだけあるのか分からない中で“加熱式たばこ専用喫煙室のみ”はリスクが高すぎます。受動喫煙防止対策支援補助金』を活用して今ある喫煙室を撤去し、“喫煙専用室”を設けることを検討しています」と今後のことを石田さんは教えてくれました。

2016年に喫煙室を設置し、分煙対策を行ってから増えた女性客や家族連れのためにフードメニューをカウンターに掲示。客単価が上がったことで売上は向上した。

「新規のお客様のためにスイーツメニューを増やすなど、条例施行に向けて年内で色々試してみる予定です。条例を知らないお客様も多いのでリピーターさんには2020年の4月以降、コーヒーを飲みながら喫煙できなくなることを今からお知らせしています。残念がる声もありますが一定の理解を頂いています」と、新規客の開拓に積極的なだけでなく、リピーターである喫煙客へのフォローも石田さんは決して忘れていません。

*2016年度の「東京都分煙環境整備補助金」の活用を指します。2019年度は「受動喫煙防止対策支援補助金」で募集を開始しています

分煙に関するご相談は
日本たばこ産業株式会社 東京支社 社会環境推進担当
電話:03-6703-0567
https://www.jti.co.jp/tobacco/bunen/consult/index.html

受動喫煙防止対策支援補助金に関するお問合せは
東京都産業労働局観光部受入環境課
電話:03-5320-4627
http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/tourism/kakusyu/syukuhaku/

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高山 しのぶ(たかやま しのぶ)
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高山 しのぶ(たかやま しのぶ)さん

美術大学卒。デザイン職を経て、輸入玩具を扱う専門商社と教育系出版社で幼児向けサービス・商品開発やマーケティング業務に従事。現在は、デザイン・サービス開発を通して培った“聞き取り力”を武器に、業界を問わず幅広いテーマでライター・エディターとして活動中。

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