「PL脳」とは?
~中小企業経営者がPL脳から脱却すべき理由~

昨年話題になった『ファイナンス思考』という本にも度々登場する「PL脳」という言葉を聞いたことがありますか? 「PL脳」とは、狭義では財務三表のうち損益計算書=PLだけに固執すること。より広義では、カネに関わる2つの学問領域において「会計」だけを重視して「ファイナンス」を軽視することを意味していると定義できるでしょう。会計は「過去から現在に至る事業活動の成績表」、ファイナンスは「事業が将来生み出す価値の合計」とも言い換えられますが、会計のみ、さらにはその中のPLのみに偏った思考に陥るリスクと、そうならないための対処法について考えてみましょう。

PL脳に陥ってしまった経営者を待ちうける未来とは?

まず、PLだけに固執してしまうと、どのようなリスクがあるのでしょうか。売上、コスト、利益は把握することができるため、日々の経営に問題はないように捉えられがちですが、以下のようなリスクが存在します。

1. 低空飛行期間が続く
毎年あるいは毎月、直近の売上・利益だけを意識して経営に従事していると、将来の夢や構想を描いて、その実現に向けてどんなリスクを取りに行くかという発想に至ることが難しくなります。その結果、中長期的に事業成長フェーズに入ることができず、低空飛行経営に留まってしまいます。

2. 自社を安く売却してしまうリスクも
将来的に同業他社あるいは大手チェーン等への事業売却を視野に入れている経営者もいらっしゃるのではないでしょうか? M&Aの世界ではファイナンス思考に基づいた意思決定を行うことが常識で、PLだけで事業価値評価をすることは通常有り得ません。PL脳に陥っていると、せっかくの自社価値を正当に評価することができず、百戦錬磨の買い手に安く買い叩かれてしまうかもしれません。

PL脳に陥ってしまう2大要因

上記のようなリスクがあるにも関わらず、なぜPLに偏った思考をしてしまうのでしょうか。それには日本特有の要因が挙げられます。

1. 企業において設定されるKPI
日本企業においては事業検討の際に、上場企業を含む多くの企業で「●年目黒字化」「▲年目累損回収」をKPIとして設定しています。つまり、BS分析やファイナンス的思考をせず、PLだけで決裁が貰えてしまうのが多くの企業の実態のため、日々の活動においてファイナンス思考を意識することができず、PL脳を脱却できません。

2. PLのシンプルな構造
「売上-コスト=利益」という単純な構造で意思決定ができれば、経営者も担当者もシンプルに考えることができ、正直、楽です。また、努力して事業活動を行った結果、PL上で利益が出ると素直に嬉しい気持ちになりますよね。この単純な構造こそ、思考停止を生む要因となっているのです。

PL脳に陥ってしまう前に、中小企業経営者がすべきこと

1. ファイナンスの基礎を学ぶ
よく言われることかもしれませんが、まずは勉強をしましょう。MBAにおいてもファイナンスは各科目の中でも最も遠い存在と言われがちな一方、学んでみたら最も面白くて役に立ったと言われる領域でもあります。金銭の時間的価値、NPV法(正味現在価値法)、フリーキャッシュフローなどの基礎的概念から学ぶことができる書籍や講座、セミナーもたくさんあります。

2. 未来を妄想する時間を作る
ファイナンスは「未来志向」の科目です。将来、事業をどう成長させ、そこからどれくらいのキャッシュが生まれるのか。その過程において、どの程度のリスクを見込んでおくべきか。その「リターン」と「リスク」を現在に換算するといくらになるか。これがファイナンスにおける基本の思考経路です。時には、現在から未来へ思いきり思考を飛ばす時間を持つことも大切です。

皆さんもまずは関連書籍を一冊買って、ファイナンスの世界への扉をノックしてみてはいかがでしょうか? 今まで関心を寄せていなかった奥深い世界があなたを待っています。

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森 暁郎(もり あきお)
この記事は私が書きました
森 暁郎(もり あきお)さん

慶應義塾大学経済学部卒業。コロンビア大学経営大学院修士課程修了(MBA)。メガバンクの赤坂支店で中小企業向け融資を担当。その後NY支店にて買収ファイナンス等に従事。MBA取得後はGE Japanにて大型の買収案件を手掛けた後、現在は社会人向けの経営大学院にてカネ系科目の教員を務めながら、複数の中小企業の経営に参画。

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