「借金=悪」という幻想からの脱却
【無借金経営って本当に素晴らしいの?・前編】

その昔、おばあちゃんから「借金だけはするな!」と言われた記憶、ありませんか? なぜ日本人は借入れを嫌うのでしょうか? 元来の節約志向や、万一返せなくなった際に人様に迷惑をかけることをできるだけ避ける文化など、理由については諸説あります。ここでは、企業において「借金=借入れ」をせずに手元の現金だけで事業を立ち上げ成長させていくことが、必ずしも正解とは限らないという話をして、上手に借入れを活用するテクニックを前後編でお伝えしたいと思います。

無借金経営にも負の側面あり

1. チャンスを逃してしまう
事業を拡大させていくには必ず資金が必要です。いつまでも無借金に拘り続けると、倒産リスクは最小化できる一方、成長の機会も閉ざされます。銀行や投資家は無借金企業に対し「安全性は高いが、この経営者は会社を成長させる気があるのか?」と捉えていることも多いです。

2. 緊張感が欠如する
無借金経営下では、自分のペースで経営できるメリットがあります。しかし一方で、借金という返済義務がある資金を調達することで、程よい緊張感が生まれ経営に良い影響を与えることが多いのも事実です。返済できないと会社を倒産させてしまう、という危機感が経営者の経営スキル向上につながるのです。

借入れって実はお得?

負のイメージが強い借入れですが、実際にはメリットも多いです。

● 株式より安い
資金調達手法は、大きく借入れか株式に二分されますが、配当が払われるかも株価が上がるかもわからない株式に比べると、契約上返済義務がある貸出(借入れ)の方が投資する側のリスクは低いですよね。リスクが低いと求められるリターンも低いのが金融界の常識。つまり、構造上、借入れは株式より安いのです。

● 節税効果がある
企業が支払う法人税は、金利を差し引いた後の利益に課税されます。つまり、借入れをして金利を払った分、法人税を減らすことができるのです。米国ではこの節税効果を最大限活用する企業が多いのが実態です。

● 経営の主体性を維持できる
借金をしたくないあまりに返済義務のない株式で調達すると、新たな株主が増えて、様々な形で経営に口出しをされる可能性も高まり、経営の主体性を保ちにくくなります。

借入れとの上手な付き合い方 ― 借入れ5か条 ―

これまでご紹介してきたことからも、借入れは決して悪ではないとわかるのではないでしょうか。ただし、むやみな借入れは禁物。最低限のルールを守って、賢い借入れをしてみましょう。

借入れ5か条

1. 守るべき指標を決める
「営業利益の3倍まで」など、事前に自身の中で最大の借入れ水準を決めて、それを順守しましょう。

2. 同業の借入れ・株式比率を調べる
同業他社のバランスシートの情報を複数入手して、同業他社のバランスシートの右側の「負債」と「純資産」の比率を見てみましょう。

3. 複数シナリオの収支計画を作る
収支計画は売上・経費等のパターンに応じて3つは作りましょう。最もコンサバティブな収支計画において、1.で決めた指標を守れる水準が、その企業にとっての借入限度額です。

4. できれば長期借入れを
一般的に短期借入れの金利が安いとはいえ、できることなら返済期間に余裕を持てる長期借入れがベターです。

5. 立ち上げ期は自らの志が最重要
自分が成し遂げたい志のままに経営に邁進するには、借入れを活用して自分以外の株主を最小化した方が経営に集中できるでしょう。

後編では、「借入れ5か条」について、さらに詳しくお伝えします。

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森 暁郎(もり あきお)
この記事は私が書きました
森 暁郎(もり あきお)さん

慶應義塾大学経済学部卒業。コロンビア大学経営大学院修士課程修了(MBA)。メガバンクの赤坂支店で中小企業向け融資を担当。その後NY支店にて買収ファイナンス等に従事。MBA取得後はGE Japanにて大型の買収案件を手掛けた後、現在は社会人向けの経営大学院にてカネ系科目の教員を務めながら、複数の中小企業の経営に参画。

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