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事業運営に必要な「運転資金月商倍率」

事業を運営する上で必要な運転資金ですが、どのくらい準備しておくかは業種やそれぞれの事業内容によって異なります。そこで、目安となる指標として「運転資金月商倍率」を活用しましょう。今回は、運転資金月商倍率の概要や計算式など、知っておきたい基礎知識をご紹介します。

運転資金月商倍率とは?

  • 自社で必要となる運転資金・経営状況を知る指標

運転資金月商倍率とは、事業の営業活動に伴う運転資金が月商の何倍あるかを分析するために使う指標です。
運転資金月商倍率の分析をすることにより、常にどの程度の売上代金に相当する運転資金を準備しておけば良いかを知ることができます。例えば、分析により「2倍」と算出された場合は、常に2カ月分の売上代金に相当する運転資金を準備する必要があると判断できるのです。
運転資金月商倍率を算出し、自社に必要な運転資金の金額が分かれば、現状の営業活動で資金繰りが悪くなっていないかを確認するためにも役立ちます。また、過去の実績と比較し、異常がないかを確認することもできるでしょう。

ここで言う運転資金とは、「売上債権残高(売掛金+受取手形)+棚卸資産-買入債務残高(買掛金+支払手形)」で算出するものです。売上債権と棚卸資産は、これから現金化する予定のお金であり、買入債務は支払わなければならないお金です。運転資金の金額が大きければ大きいほど、それだけ多くの資金を手元に置いておく必要があり、資金繰りの負担も大きくなります。

  • 自社の運転資金が適正かどうかの判断材料になる

必要な運転資金を算出すれば、同業他社や業種平均と自社とを比較し、自社の運転資金が大幅にずれていないかをチェックできます。もし大幅に平均から外れている場合は、売上債権月商比、棚卸資産月商比、買入債務月商比にそれぞれ分解し、詳細に調べる必要があります。

  • 健全な事業運営のために定期的なチェックが大切

運転資金月商倍率は、数値の変動がないか定期的にチェックするのが望ましいです。数値が高ければ高いほど運転資金として確保するお金も大きくなるので、会社にとっては経営を圧迫する原因になります。
例えば、運転資金月商倍率が2倍の会社は、常に月商の2カ月分を運転資金として確保する必要があります。売上が1カ月で200万円増加した場合は、余分に400万円の運転資金が必要になるということです。
運転資金月商倍率が高い会社ほど売上が上がったときに運転資金の増加額の幅は大きくなるので、あらかじめ運転資金の増加額を見込んで予算を組んでおくことが大切になるでしょう。特に予想される運転資金の増加より、税引き後の利益率が低くなる予想の際は、借入れ計画も立てておいた方が良いでしょう。

運転資金月商倍率の計算式

運転資金月商倍率の計算方法は、下記の通りです。算出した数値が低いほど、所要運転資金が少なくて済むことになります。

運転資金月商倍率 = 運転資金 ÷ 平均月商

また、算出した数値が変わらなくても平均月商が増加している場合は、所要運転資金も増額するはずです。その場合は、増額分の調達方法についても確認しておいた方が良いでしょう。

中小企業庁の「中小企業白書」によると、運転資金月商倍率は下記の通り業種によって平均が異なるため、目安となる数値も変わってきます。

業種別運転資金月商倍率の相場

この結果から、運転資金の相場は製造業の場合はおよそ2カ月分、非製造業の場合は1カ月分以上の確保をすることが目安と言えそうです。

運転資金月商倍率が高くなる要因

運転資金月商倍率の数値が高くなった場合は、何が原因か突き止める必要もあります。数値が高くなる原因は棚卸資産回転期間と売上債権回転期間が関係している可能性があります。

  • 棚卸資産回転期間が延びている場合は不良在庫を疑ってみよう

棚卸資産回転期間とは、仕入れから売上までの日数を把握するための指標です。回転期間が短いほど売上が上がるのも早いと判断できます。
棚卸資産回転期間は仕入れや商品別に算出し、個々の売れ行きをチェックするのにも活用できます。通常より棚卸資産回転期間が延びている場合は、滞留在庫(不良在庫)がないかを調べてみましょう。滞留在庫は不良資産化しやすく、経営に悪影響を及ぼすことが多いからです。定期的に在庫を点検し、仕入れから売上に結び付かない商品は仕入れを減らすことを検討したり、処分したりするなど対策が必要です。

ただ、会社によっては経営戦略の一つとして棚卸資産を増やすこともあります。目的があって在庫を増やす場合は棚卸資産回転期間が増加するのも当然のことです。ですが、あえて在庫を増やす場合でもどの程度の棚卸資産を増加させたか把握し、隠れ不良在庫が増えないように注意しましょう。また、在庫が増えれば運転資金も増加するので、増えた分の運転資金を確保することも必要となります。

  • 売上債権回転期間が増加すると現金化の遅れから経営圧迫に

売上債権回転期間は売上から入金までの期間を知る指標の一つで、短いほど現金の入ってくる日数や月数も早く、会社にとってはメリットがあると考えられます。通常、売上債権回転期間は売上の増減で変動することが少ない指標です。しかし、業態の変化や取引先の状況などによっては変動する場合があります。

売上債権回転期間の数値は増加すればするほど現金化までの時間がかかることになり、それに伴って必要な運転資金の金額も増えると考えられます。運転資金が増加すると、会社の負担は当然大きくなるでしょう。経営が圧迫されないように、売掛金の回収がスムーズにいっているか、売上債権回転期間の数値に変化がないかについても気を配ることが大切です。

  • 売上債権回転期間の増加は滞留債権や不良債権の可能性も

売上債権回転期間が延びた場合は、滞留債権や不良債権の存在も疑ってみましょう。滞留債権とは、まだ回収できていない債権のうち支払いが遅れている債権のことです。取引先の経営状況の変化や事業の失敗などで予定通りに弁済が受けられない場合に発生します。

一方、不良債権は回収が不可能もしくは著しく困難な状態の債権を言います。滞留債権の場合、支払いが遅延しているだけなら回収できる可能性がありますが、不良債権の場合、取引先によっては倒産や夜逃げなどで所在がつかめなくなるリスクもあります。不良債権の金額が大きいほど、自社にとっても回収の見込みが非常に低くなることで経営が圧迫され、最悪は倒産に追い込まれる可能性もあります。
したがって、売上債権回転期間が延び、原因が滞留債権にある場合は回収できなくなる前に手を打ち、不良債権の場合も早急な対策が必要です。ただ、不良債権は決算対策として貸倒損失で計上することもできます。事業の運営に問題ない範囲の債権であれば、節税対策に利用し、会社の損失を減らすという方法もあるでしょう。

その他、売上債権回転期間が延びる原因には、取引先との販売状況の変化により条件の悪い商品が売れている可能性も考えられます。いずれにせよ、売上債権回転期間が延びた場合は必要運転資金も増加します。まずは原因を探り、何らかの対策をとるようにしましょう。

運転資金月商倍率は、自社の経営状況を把握する重要な指標となります。定期的にチェックすることで問題点にも素早く対処し、健全な経営状況を維持できるようにしましょう。

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山本勧(やまもと すすむ)
この記事は私が書きました
山本 勧(やまもと すすむ)さん

不動産会社に5年勤務後、会計事務所に勤める。現在は独立し、フリーライターとして活躍。主に不動産関係やお金についての記事をメインで執筆。

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