借入れとの上手な付き合い方
【無借金経営って本当に素晴らしいの?・後編】

前編では「必ずしも無借金経営が正解とは限らない、借入れを上手に活用すべし」というお話をしました。とはいえ、返済義務がある借入れをするのは、経営者として勇気がいる行為でもあるでしょう。本編では、どうすれば恐怖心をコントロールしながら借入れと上手に付き合っていけるのか、5つのポイントについてより具体的に考えていきましょう。

借入れ5か条

1. 守るべき指標を決めて、必ず守りましょう
最も大切なポイントは「借り過ぎない」ことです。よく使われる指標は、「総借入れは営業利益の3倍を上限に」「営業利益は支払利息の10倍以上を確保」などです。後者はインタレストカバレッジレシオと呼ばれます。こうした適正な水準については銀行などもアドバイスをしてくれるはずですが、外部のアドバイスに頼らず自律的に自社のバランスシートのコントロールをする癖をつけておけば、上手に借入れと付き合っていけるでしょう。

2. 同業の借入れ・株式比率を参考にしましょう
同業他社のバランスシートの情報を複数入手して、バランスシートの右側の「負債」と「純資産」の比率を見てみましょう。無論、企業規模や個社による差もありますが、同業他社がどの程度借入れを活用しているかは、自社にとってのバロメーターにもなり得ます。業界比較で言えば、一般的には景気の変動の影響を受けやすい業界は銀行が貸しにくいので純資産の比率が高くなりがち、一方預金を大量に集めることで事業をしている銀行にとっては預金=負債なので、負債比率が非常に高くなります。

借入れ5か条

3. 複数シナリオの収支計画を作っておきましょう
収支計画は売上・経費等のパターンに応じて3つは作っておきましょう。収支計画において複数のパターンを用意しておく「シナリオ分析」と呼ばれる手法は、最もコンサバティブなシナリオをあらかじめ想定していくことで経営者の恐怖心を抑制する効果があります。さらに、借入れにあたって銀行を説得する上でも非常に有効な上、企業買収(売却)の際にも必ず使われる手法なので、中小企業経営者として知っておいて決して損はありません。

4. できれば長期借入れがベターです
一般に短期借入れの金利が安いとはいえ、経営が軌道に乗るまでは毎年期日に借入れを更新できるか緊張の日々を過ごすことになるので、できることなら期日まで3~5年ほどを確保できる長期借入れがベターです。もし事前に十分なキャッシュが生まれてきたら、期日前返済すればいいわけです。借入れには、住宅ローンでよくある繰上返済手数料も発生しません。

5. 立ち上げ期は自らの志をなによりも大切にしましょう
自分が成し遂げたい志、あるいは自らが関心のある事業に最初からピッタリと賛同してくれるパートナーはなかなか存在しません。であれば、安易に返済義務のない資金に頼ることで多数株主による経営を余儀なくされるよりも、上手に借入れを活用して株主数を最小化して自身のコントロールを最大化した方が、ストレスなく経営に集中できるはずです。起業家や中小企業経営者から「株は取られたくない」という発言を頻繁に聞く背景には、このような事情があるのです。

「借入れ」という響きに何となく恐怖心をおぼえる中小企業経営者は少なくないと想像しますが、そこで思考停止せずに「どうすればその恐怖心をコントロールできるか?」という方向に思考を発展させ、借入れも有効に活用する事で事業を成長させていきたいですね。

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森 暁郎(もり あきお)
この記事は私が書きました
森 暁郎(もり あきお)さん

慶應義塾大学経済学部卒業。コロンビア大学経営大学院修士課程修了(MBA)。メガバンクの赤坂支店で中小企業向け融資を担当。その後NY支店にて買収ファイナンス等に従事。MBA取得後はGE Japanにて大型の買収案件を手掛けた後、現在は社会人向けの経営大学院にてカネ系科目の教員を務めながら、複数の中小企業の経営に参画。

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